中学校の理科では「力のはたらき・力のつりあい」について学びます。
「力」という言葉は普段から用いる言葉ですが、物理における力とは意味が異なっています。そういう意味で学習者が混乱するところです。
力とは何なのか、高校入試に備えてなにを勉強しておく必要があるのかを解説します。
都立入試における力のはたらき・力のつりあいの問題の出題傾向
高校入試における力のはたらき・力のつりあいの問題を都立入試を例に挙げて解説します。
過去5年の出題実績
2016大問1の問2に力の作図の問題が出ているだけです。出題実績は少ないと言えるでしょう。
力を勉強してその先の分野に備える
上記の出題実績で分かるように、「力のはたらき・力のつりあい」に限って見れば、都立入試での出題は少ないです。
しかし、仕事・エネルギーといった上位概念を学習するときに、力が分かっていないと理解ができなくなってしまいます。
そのため、出題が少ないからといって手を抜いていいわけではありません。しっかり力のはたらき・力のつりあいを学んでおきましょう。
力のはたらき・力のつりあいのところで押さえておくべき事項
この範囲で押さえておくべきことは次のことです。
- 力とはなにか
- 力の三要素(「大きさ」「向き」「作用点」)
- さまざまな力(重力、垂直抗力、弾性力、摩擦力、磁力)
- 力のつりあいとは
- 力のつりあいの条件
- 力がつりあっていると物体の運動はどうなるか
これらについて解説します。
力とはなにか
「力」は日常でよく用いられる言葉で、「集中力」「継続は力なり」など何かを起こす源になるようなモノに使われています。
しかし、物理において力とは、もっとハッキリした意味合いで使用されることが多いです。
具体的に力とは、
- 物体を変形させるはたらきをするモノ
- 物体の運動(速度)を変えるはたらきをするモノ
を指します。
例えば、物体が加速しながら落下していく際には重力という力がはたらいています。
また、平面上を滑る物体が減速したのは摩擦力という力がはたらいたからです。
「集中力」は物理においては力ではありません。
このように「力」という物理用語を正確に用いてください。
力の三要素(「大きさ」「向き」「作用点」)
力には「大きさ」「向き」「作用点」の三要素があります。ひとつずつご説明していきましょう。
まず「大きさ」について。力が大きいほど物体を大きく変形させ、運動を大きく変化させます。
大きさの単位は[N]ニュートンです。地球上で質量1[kg]の物体にはたらく重力はおよそ10[N]です。
続いて「向き」について。同じ5[N]の力を加えるとしても、右向きに加えるのと左向きに加えるのとでは作用が違います。つまり、力には向きの要素があります。
そのため、力を表すときは「右向きに5[N]」のように向きを指定する必要があるわけです。
そして、力をどこに加えるのかを指定するのが「作用点」です。
力には接してはたらく力と接しないではたらく力があります。作用点は、この接している場所によってどこが作用点なのかが異なります。
接してはたらく力は、接しているところが作用点です。接しないではたらく力は、物体の中心に作用点があります。
力を矢印で表す
このように力には向きの要素があるため、矢印で表現すると便利です。
さまざまな力(重力、垂直抗力、弾性力、摩擦力、磁力)
中学理科であつかう代表的な力を挙げます。それぞれ作用点と向きに注目しましょう。
- 重力
地上にある物体が地球(星)から受ける力です。重力は接しないではたらく力なので、作用点は物体の中心です。向きは下向きです。 - 垂直抗力
机や斜面などが物体を支える力です。作用点は接しているところ、向きは接している面から垂直に上向きです。 - 弾性力
バネやゴムが元の形に戻ろうとする力です。作用点は接しているところ、向きは伸びているときは縮もうとする向き、縮んでいるときは伸びようとする向きです。 - 摩擦力
物体が接しているときに運動を妨げようとする力です。作用点は接しているところ、向きは運動を妨げる向きです。 - 磁力
磁石と磁石のあいだではたらく力です。磁力は接しないではたらく力です。作用点はやや難しいので中学では考えなくて良いでしょう。向きはN極とN極、S極とS極の場合しりぞけあう向き。N極とS極では引力になります。
ここで、実際にはたらく力を矢印を用いて表してみましょう。
天井からバネでつり下げられているおもりにはたらく力を例にとります。作用点と向きにしっかり意識をおいてください。
まず接しないではたらく力について。重力がはたらいています。作用点は物体の中心、向きは下向きでした。
下のように作図します。
次は接してはたらく力について。おもりはバネと接しています。したがって弾性力がはたらきます。
作用点はバネとおもりが接しているところです。向きはバネが伸びているので縮もうとする向きです。
おもりにはたらいている力は以上です。余力のある人は、バネにどんな力がはたらくか考えてみるとよいでしょう。
力のつりあいとは
力とは物体の運動を変化させるものだと述べました。
しかし、物体に力を加えても動かないことがあります。これは加えた力以外にも力がはたらいて、力がつりあっているからです。
つまり力のつりあいとは、上記のように2つの(複数の)力が打ち消し合って、力がはたらいていないのと同じ状態になっているということです。
力のつりあいの条件
2つの力がつりあうのはどのようなときでしょうか。
- 2力の大きさが等しい
- 2力の向きが逆向き
- 2力が同一直線上にはたらく
この3つの条件を満たしているとき2力はつりあいます。
力がつりあっていると物体の運動はどうなるか
力は運動を変化させるものでした。ということは力がつりあっていると物体の運動は変化しません。
つまり、はたらく力がつりあっていると
- 静止している物体は静止し続ける
- 運動している物体は等速直線運動を続ける
ということがいえます。
逆に、静止している物体、等速直線運動する物体にはたらく力はつりあっているともいえます。
先に例に挙げたバネにつるされたおもりを考えましょう。
おもりは静止しています。ということははたらく力がつりあっているということです。
よって、重力と弾性力はつりあっています。大きさが等しく、逆向きで、一直線上ということです。
力のはたらき・力のつりあいの問題のポイント
学習のポイントを挙げてみます。
代表的な力の作図ができる
代表的な力を矢印を用いて表すことができるようにしておきましょう。
その際、とくに作用点の位置を正しく描けることがポイントになります。
力がつりあっているとき物体の運動状態が変化しないことを押さえる
- はたらく力がつりあっているとき物体の運動は変化しない
- 物体の運動が変化しないときはたらく力はつりあっている。
これは重要なことなのでしっかり押さえておいてください。
どのような問題が出題されるか、2016年に出題された問題の解説
2016年都立入試理科で、摩擦のある斜面上を滑る物体にはたらく力の作図の問題が出題されました。
「大問1〔問2〕図2のように、摩擦のある斜面を滑り降りている物体がある。物体に働く重力、物体に働く摩擦力、斜面から物体に働く垂直抗力のそれぞれを矢印で表したものとして適切なのは、次のうちではどれか。ただし、●は作用点を表している。」(図2、選択肢割愛)
択一式の問題で正しい力の図を選べというものです。正解は次のようなものです。
重力の作用点が物体の中心、摩擦力と垂直抗力の作用点が接触面の中心という選択肢を選ぶ必要があります。
ポイントは作用点です。不正解の選択肢は重力の作用点が面上にあったり、垂直抗力の作用点が物体の中心にあったりしました。
力のはたらき・力のつりあいの勉強法
力のはたらき・力のつりあいは、以下の2点に注目して勉強すると良いでしょう。
矢印を用いた力の作図を練習する
練習問題を繰り返して、矢印を用いた力の作図ができるようにしましょう。
その際問題の模範解答を見て、作用点の位置が正しく描けているかをしっかり確認しましょう。
力がつりあっているときの物体の運動について押さえる
- 力がつりあっているときは物体の運動は変化しない(静止を続ける、等速直線運動)
- 物体の運動が変化しないときは力がつりあっている
上記の2点をすぐに言えるようにしておきましょう。
問題文に「物体が等速直線運動する」と書いてあったら、はたらく力がつりあってるんだ!と瞬時に連想できるようにしておきたいです。
まとめ
- 入試での出題自体は少ないが、以降の基礎事項になるのでしっかり理解する
- 矢印を用いた力の作図ができるようにしておく。その際作用点の位置が重要
- 力がつりあっているとはどういうことか、力がつりあっていると物体の運動はどうなるのかを理解しておく