中学1年の生物で「蒸散」を学びます。蒸散は植物が体内から水蒸気を放出する現象のことで、高校入試でもよく出題されています。
定期テストや高校入試で出題される蒸散の問題にはパターンがあるので、それを身につけておけば対応できます。
蒸散の典型問題の解法、勉強方法をここで身につけてください。
都立入試理科における蒸散の出題実績
蒸散の問題の高校入試における出題実績を見ておきましょう。
都立入試の過去5年では、2018年大問4の問2に典型的な蒸散の問題が出題されています。
葉にワセリンを塗って実験を行い、植物のどの部分から蒸散が行われるかを問うものです。のちほど問題を掲載して解法を解説します。
高校入試・蒸散の分野で押さえておくべき事項
蒸散の分野で押さえておくべきことは次の4つです。
- 蒸散とは
- 気孔、孔辺細胞とは
- 何のために蒸散するのか
- 蒸散が盛んになるのはどのようなときか
以下、ひとつずつ説明していきます。
蒸散とは
植物は体内から水分を水蒸気として放出しています。この現象を「蒸散」と言います。
気孔、孔辺細胞とは
水蒸気を放出する孔(穴)を「気孔」と言います。この気孔を形づくる周りの細胞を「孔辺細胞」と言います。
気孔は、葉の裏側にたくさんあるものです。
気孔からは水蒸気の他に酸素や二酸化炭素も出入りします。
何のために蒸散するのか
それでは、植物が蒸散をおこなう目的にはどのようなものがあるのでしょうか?理由としては次の3つが挙げられます。
- 植物内の水分量を調整する
- 植物の体温を調節する
- 根からの水の吸収を盛んにする
ひとつずつ解説します。
植物内の水分量を調整する
植物は生命活動を行うために水を必要とします。体内の水分量を適切な量に調整するために蒸散は行われているのです。
植物の体温を調節する
植物は、水が水蒸気になる際に蒸発熱が奪われることを利用して体温調節をしています。
その水蒸気を蒸散するというわけです。
人間が汗をかくのと同じ理由です。
根からの水の吸収を盛んにする
必要な水分を補うため、植物は根から水を吸い上げなくてはなりません。水蒸気を蒸散することで根からの水の吸収を促しています。
蒸散が盛んになるのはどのようなときか
蒸散の問題では、どのようなとき蒸散が盛んになるのかを答えられなくてはいけません。次の2つです。
- 気温が高いとき
- 湿度が高いとき
その理由を説明します。
気温が高いとき
気温が高いとき、植物は体温を下げなくてはいけません。
そのためにはより多くの水を水蒸気に変化させて、蒸発熱として熱を発散する必要が生じます。その際に水蒸気を蒸散するので、普段よりも盛んになるのです。
湿度が高いとき
植物は体温を調節するために水を蒸発させるのですが、湿度が高いと蒸発がおこりにくくなります。
すると湿度が低いときと比べて体温調節の効果が低下してしまいます。それを補うために、植物はさらに多くの蒸散を発生させようとするのです。
このような理由から、湿度が高いと蒸散が盛んになります。
湿度が高いと人間が汗をよくかくのと同じ理由です。
蒸散の問題のポイント
植物のどの部分から蒸散するかを計算で求めさせるというのが蒸散の問題のパターンです。
パターンを見るために、都立入試2018年大問4(問2)を解いてみましょう。
都立入試2018年大問4(問2)
<実験2>
⑴ 葉の枚数や大きさ、色、茎の太さの条件をそろえたツユクサを4本用意し、茎を切って長さをそろえた。
⑵ 全ての葉について、表側にワセリンを塗ったものをツユクサA、裏側にワセリンを塗ったものをツユクサB、表側と裏側にワセリンを塗ったものをツユクサC、ワセリンを塗らなかったものをツユクサDとした。
なお、ワセリンは、水や水蒸気を通さないものとする。
⑶ 4個の三角フラスコに同量の水を入れ、ツユクサAを挿したものを三角フ ラスコA、ツユクサBを挿したものを三角フラスコB、ツユクサCを挿した ものを三角フラスコC、ツユクサDを挿したものを三角フラスコDとした。
その後、図6(図6割愛)のように三角フラスコ内の水の蒸発を防ぐため三角フラスコA~Dのそれぞれの水面に少量の油を注いだ。
⑷ 少量の油を注いだ三角フラスコA~Dの質量を電子てんびんで測定した後、明るく風通しのよい場所に3時間置き、再び電子てんびんでそれぞれの質量を測定し、水の減少量を調べた。
<結果2>
水の減少量
三角フラスコA 1.4g
三角フラスコB 0.9g
三角フラスコC 0.3g
三角フラスコD 2.0g
〔問2〕<結果2>から、葉の蒸散の様子について述べたものと、葉の裏側からの蒸散の量を組み合わせたものとして適切なのは、下の表のア~エのうちではどれか。
ただし、ワセリンを塗る前のツユクサA~Cの蒸散の量は、ツユクサDの蒸散の量と等しいものとし、また、ツユクサの蒸散の量と等しい量の水が吸い上げられるものとする。
葉の蒸散の様子 葉の裏側からの蒸散の量
ア 蒸散は、葉の表側より裏側の方がさかんである。 1.4g
イ 蒸散は、葉の裏側より表側の方がさかんである。 1.4g
ウ 蒸散は、葉の表側より裏側の方がさかんである。 1.1g
エ 蒸散は、葉の裏側より表側の方がさかんである。 1.1g
解説します。
蒸散は植物の表面から起こります。それを、「葉の表」「葉の裏」「茎」に分けます。
「ワセリンを塗るとそこからは蒸散できなくなる」ということがポイントです。
Aは表にワセリンを塗っているので、表からは蒸散できません。つまり
「葉の裏からの蒸散」+「茎からの蒸散」=1.4g
同様に、Bは裏から蒸散できないので
「葉の表からの蒸散」+「茎からの蒸散」=0.9g
Cは表も裏も蒸散できません。
「茎からの蒸散」=0.3g
Dはワセリンを塗っていないので、全表面から蒸散できます。よって
「葉の表からの蒸散」+「葉の裏からの蒸散」+「茎からの蒸散」=2.0g
Cの「茎からの蒸散」=0.3gをA、Bの式に代入して計算すると
「葉の裏からの蒸散」=1.4g-0.3g=1.1g
「葉の表からの蒸散」=0.9g-0.3g=0.6g
この結果から、表側より裏側の方が蒸散が盛んなことが分かります。また、裏側からの蒸散は1.1gです。
よって、正解は「ウ」です。
蒸散の問題のパターン
「葉の表や裏にワセリンをぬって蒸散をさせ、植物のどの部分から蒸散が行われるのかを計算させる」というパターンが多いです。
ワセリンの役割は蒸散を妨げるということです。そのため葉の表に塗れば、葉の表からの蒸散は妨げられます。
ワセリンを塗ることで、「葉の表からの蒸散」「葉の裏からの蒸散」「茎からの蒸散」に蒸散を分解できることがポイントです。
水の減少量が蒸散量で、その値から各部分の蒸散量を求めます。
また、実験の目的はどの部分に気孔がたくさんあるかを調べることなので、気孔は葉の裏側に多いということも答えられなくてはいけません。
蒸散の勉強法
「ワセリンを塗って蒸散の実験をおこない、植物のどの部分から蒸散が行われるのかを計算で求める」この問題を解けるようにしましょう。
計算がやや難しいです。しかし、やっていることは3項の連立1次方程式です。
「中学の数学で習う連立方程式は2項までなので習っていないではないか」と考えるかもしれませんが、冷静に計算できれば対処はできます。
次に解説します。
蒸散の問題の計算方法
もう一度さきほど解いた都立の問題を思い出してみましょう。4つの式が立ちました。
A、「葉の裏からの蒸散」+「茎からの蒸散」=1.4g
B、「葉の表からの蒸散」+「茎からの蒸散」=0.9g
C、「茎からの蒸散」=0.3g
D、「葉の表からの蒸散」+「葉の裏からの蒸散」+「茎からの蒸散」=2.0g
これらの式から、個々の「葉の表からの蒸散」「葉の裏からの蒸散」「茎からの蒸散」を求めるというのがテーマです。
Cにより「茎からの蒸散」はすでに求まっています。これをAに代入すると
「葉の裏からの蒸散」+0.3g=1.4g
∴「葉の裏からの蒸散」=1.4g-0.3g=1.1g
これで「葉の裏からの蒸散」は求まりました。
さらにBにも代入すると
「葉の表からの蒸散」+0.3g=0.9g
∴「葉の表からの蒸散」=0.9g-0.3g=0.6g
これで「葉の表からの蒸散」も求まりました。
このように、分かったものを代入しては分からないものを求めていくというのがやり方です。
まとめ
- 「蒸散」「気孔」の意味を覚える
- 何のために蒸散するのかを理解する
- どのようなとき蒸散は盛んになるのかを理解する
- 蒸散の問題のパターンに慣れる(ワセリンを塗って蒸散を植物のパーツごとに分けるというパターン)
- 蒸散の問題の計算ができるようにしておく(葉の表からの蒸散、葉の裏からの蒸散、茎からの蒸散を求められる)
- 気孔は葉の裏側に多いことを覚えておく