農業には、稲作・果樹栽培・畜産などいろんな分類がありますね。
こうした分類は、稲作なら稲、果樹栽培なら果樹というように「何を作っているか」を表したものです。
一方、この記事で学ぶ「近郊農業・園芸農業」は、生産物ではなく生産・栽培方法によって農業を分類した呼び名です。
まずそのことを頭に入れて、解説を読んでみてくださいね。
近郊農業・園芸農業の勉強で押さえるポイントを最初に知っておこう!
近郊農業・園芸農業についてピンポイントで問われることは少なく、農業全般に関する知識と組み合わせて問われます。
例えば、近郊農業では都市に向けて新鮮な農産物を出荷しているので、「農産物の種類や生産量の表やグラフを見て図中のどこの都市かを選ぶ」というような問題が出題されます。
そのため、近郊農業・園芸農業を勉強する上では、
- どのような作物を
- どういった地域・土地で作っているか?
ということを資料集等を見ながら勉強していきましょう。
では、まずは近郊農業と園芸農業それぞれについて説明していきます。
近郊農業
近郊農業とは、都市の消費者向けに、都市部から距離の近い地域で行われる農業のことです。
生産されるものは鮮度が求められるものが多く、野菜・果物・花・鶏卵・牛乳・食肉など多岐にわたります。
消費者と生産者の距離が近いため、輸送にかかる時間や費用といったコストを安く抑えられるというメリットがあります。
生産コストが安くなると、消費者側も新鮮な農産物を安く買うことができます。
基本的に近郊農業は大都市の周辺で発達した農業であることを押さえておきましょう。
ところが交通網の発達にともなって、少し離れた地域からも新鮮な農産物を運べるようになってきました。
そのため、促成栽培や抑制栽培といった生産時期をずらす技術も発展しました。
促成栽培や抑制栽培は農産物の安定供給と価格調整のために行われています。
生産時期をずらすことによって、一年を通していろんな野菜が食べられるようになるのです。
例えば、トマトは夏の野菜の代表格ですが、スーパーで冬にも購入できますよね。
これは「抑制栽培」によって、収穫時期を遅らせるように育てたトマトが売られていることが多いのです。
このように、消費者の近くで生産する近郊農業ではさまざまな工夫が行われています。
日本で近郊農業が盛んな地域
日本で近郊農業が盛んな地域として、関東地方が挙げられます。
近郊農業は大都市の近郊で盛んに行われているので、日本最大の都市圏である東京大都市圏の周辺でも活発です。
関東地方には関東平野をはじめとする平野部が多いため、こうした平野部の台地で発展しました。
平野部が多いと言っても、そこに住んでいる人口も多いため、北海道のように広大な耕地は確保できません。
そのため近郊農業では、同じ畑で何度も収穫できる農産物がよく作られています。
園芸農業
続いて、園芸農業について説明します。
園芸農業とは、都市の市場への出荷を目的に野菜・果樹・花などを栽培する農業です。
園芸農業は次のように細かく分類できます。
- 施設園芸農業
温室などの施設を使って行う園芸農業のこと - 輸送園芸農業
トラックやフェリーなどを使って農産物を輸送する園芸農業のこと
日本で園芸農業が盛んな地域
日本では、特に中部地方の東海で園芸農業が盛んです。
その理由は大きく分けて2つあります。
- 東海は冬でも温暖なため、温室の暖房にかかる燃料費が抑えられ、生産コストを安くできるため。
- 東名高速道路などの交通網が発達しており、離れた都市へも輸送しやすいため。
①は施設園芸農業、②は輸送園芸農業を行う上での大きなメリットです。
こうした理由から、東海では菊・ガーベラなどの切り花、いちご・メロンなどいろんな農産物が園芸農業で作られています。
近郊農業と園芸農業の違い
ここまでしっかり読んできた方こそ「近郊農業と園芸農業ってなにが違うの……?」という気持ちになっているのではないでしょうか。
実際に、入試問題に取り組む時期になってもこの2つの言葉を混同してしまう人は多いです。
どちらも「都市に向けて行われる農業」という点は共通しているため、近郊農業と園芸農業の違いはわかりづらいですね。
それもそのはずで、近郊農業は実は園芸農業の一種なんです。
「都市への出荷を目的に行われる」のが園芸農業であり、これは近郊農業も一緒です。
では、いったい何が違うのか。
1つ大きく異なるのは「どこで行われるか」という点です。
具体的には、「消費者と生産者が近いか離れているか」で見分けましょう。
園芸農業では、東海で作られた花や果物が東名高速道路を通って東京まで出荷されるなど、遠く離れた都市へも農産物が運ばれます。
つまり、東京から見れば離れた地域で行われることもあるのが園芸農業です。
これに対して、近郊農業は都市に近い地域で行われます。
例えば、東京の消費者に向けて千葉県で作られたほうれん草や茨城県で作られたピーマンが出荷されています。
このように、東京という都市の近くである千葉や茨城といった産地で行われている農業は、近郊農業と呼ばれます。
近郊農業・園芸農業の入試問題を解いてみよう
それでは実際の入試問題を解いてみましょう。
以下の問題は、平成28年度都立高校入試の大問3から抜粋したものです。
”次のAの略地図は、日本の各都道府県の2010年における製造品出荷額の状況を表したものである。Bの略地図は、日本の各都道府県における1980年と2010年を比較した製造品出荷額の増減の状況を表したものである。A及びBの略地図を見て、あとの問に答えよ。
次のⅠの表のア~エは、Bの略地図中に①~④で示したいずれかの県の県庁所在地の年平均気温及び年降水量、2013年における農業産出額と農業産出額に占める米、野菜、果実、畜産の割合及び農業産出額の上位5位の農産物を示したものである。次のⅡの文章で述べている県に当てはまるのは、Ⅰの表のア~エのうちのどれか。
Ⅱ
この県の西部および中部地域には、北から南に向かって流れる複数の河川があり、海岸沿いに平野が発達している。平野と平野の間の台地では、温暖で水はけのよい土地での栽培に適した作物や果実の栽培が盛んであり、国内における有数の産地となっている。米、野菜、果実、畜産に分類されない農産物の農業産出額は、約600億円である。”
では、さっそく解いていきましょう。
Ⅱの文章から、園芸農業の有数産地である東海地方である可能性が高いとわかります。
そこでBの略地図を見てみると、②の静岡県が該当しそうです。
ここまで推察した上で、Ⅰの表を見ていきましょう。
まずは表の左端、年平均気温に着目すると、ひとつだけ他より大幅に低いウがあります。
これが①の青森県と考えられ、農業産出額の上位5位の農産物にりんごや米があることから確定します。
続いて農業産出額の上位5位の農産物に注目すると、アは茶やみかんの生産が多いことから②の静岡県と考えられます。
またイは「日本なし」が入っていることから、③の鳥取県と推測できます。
残るエは農業産出額に占める畜産の割合が50%を超えているので、畜産業の盛んな九州地方にある④の宮崎県で良さそうです。
よって、Ⅱの文章に当てはまるのは②の静岡県で、Ⅰの表のアとなります。
このように、園芸農業や近郊農業について理解していれば裏付けができ、自信をもって解答できるようになります。
正解はアです。
近郊農業・園芸農業の直前対策法!
それでは具体的に、近郊農業・園芸農業の直前対策としてどのようなことに取り組めば良いのでしょうか?
農産物の種類と地域を頭に入れよう!
出題傾向の項目でも触れたように、近郊農業・園芸農業については複合的な問題が出されます。
そのため、どんな特徴をもつ農産物をどんな地域で作っているのか、資料集などで確認しながら覚えていきましょう。
近郊農業では、関東平野などの大都市近郊で、新鮮さを求められる野菜や果物などが作られています。
そのため、「千葉・茨城・埼玉など東京の近くで野菜を作っている」という記述があれば、近郊農業について書かれている可能性が高いです。
東海地方の農業に関する記述が出てきたら、園芸農業の話題かもしれません。
このように知識を組み合わせて使うには、覚える事柄が多いと感じてしまうかもしれません。
でも、入試に取り上げられる世界や日本の気候や産業はすぐに大きく変化するわけではありません。
もちろん時事問題が出されることも考えられますが、それはあくまで入試問題の一部です。
数年分の入試問題に取り組めば、ある程度出題傾向は予測できるものです。
過去問を解いて傾向をつかみながら、効率よく知識を頭に入れましょう。
まとめ
近郊農業・園芸農業が理解できたでしょうか?
特徴や違いを意識しながらしっかり覚えてくださいね。